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東京地方裁判所 昭和38年(行)98号 判決

原告 井上敏一

右訴訟代理人弁護士 森美樹

被告 東京都知事 美濃部亮吉

右指定代理人 泉清

〈ほか二名〉

主文

被告が東京都港区芝田村町三丁目一一番地幅員二・七三メートル(九尺)、延長二五・八二メートル(八五尺二寸)の道路につき昭和二七年一一月二九日告示番号一、〇八五号をもってなした道路位置廃止処分は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

一  原告

1  主位的申立て

主文と同旨の判決を求める。

2  予備的申立て

「被告が東京都港区芝田村町三丁目一一番地幅員二・七三メートル(九尺)、延長二五・八二メートル(八五尺二寸)の道路につき昭和二七年一一月二九日告示番号一、〇八五号をもってなした道路位置廃止処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求める。

二  被告

1  主位的申立てに対し、

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

2  予備的申立てに対し、

「原告の訴えを却下する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求める。

第二原告の主張

(請求の原因)

一  東京都港区芝田村町三丁目一一番地所在の幅員二・七三メートル(九尺)、延長二五・八二メートル(八五尺二寸)の道路は、古く明治時代より関係土地所有者や使用権者はもとより、近隣居住者および一般通行人の通行の便に供されてきた重要な道路であって、昭和七年三月二二日警視庁告示告建第六、二八一号をもって指定された私道(以下「本件私道」という。)であり、昭和二五年一一月二八日東京都告示により建築基準法四二条一項五号の道路とみなされたものである。

二  ところが、被告は、昭和二七年一〇月二〇日指定番号第二、四九七号をもって本件私道の廃止を指定し同年一一月二九日告示番号第一、〇八五号をもってその告示(以下「本件処分」という。)をした。

三  しかし、本件処分はつぎの理由により違法かつ無効である。

1 本件処分は、申請者東京都港区芝田村町三丁目一一番地訴外有限会社新栄商会(代表取締役手島三千三)の昭和二七年九月二五日付道路廃止申請者(以下「本件申請書」という。)に基づきなされたものであるところ、本件申請書には、(一)関係土地所有者は、東京都港区芝新橋三丁目二六番地訴外田島新造、(二)関係土地の使用権者は、(1)前記申請人新栄商会(2)東京都港区芝田村町三丁目一一番地訴外植木はつ(3)同所同番地原告井上敏一(4)同所同番地訴外山田四郎(5)同所同番地訴外高橋三枝であって、右田島、新栄商会、植木、井上(原告)、山田、高橋の全員が本件私道の廃止に承諾した旨記載され、その名下には、それぞれの印影がある。

2 しかし、本件申請書は、その記載内容が真実に合致しないばかりでなく、何人かの偽造にかかるものであって、関係人すべての意思に反するものである。すなわち、

(一) 本件申請書提出当時の本件関係土地の地番および真の所有者ならびに使用者の状況は別紙一のとおりであり、本件申請書に記載された本件関係土地の所有者ならびに使用者の状況は別紙二のとおりである(なお、本件申請書には、本件私道廃止に関係する土地の地番および地積の詳細が記載されていないが、本件申請書と一体をなす添付図面によれば、別紙一の整理番号と別紙二の整理番号は、符合するものと考えられる)から、別紙一と別紙二とを比較対照すれば明らかなように、本件申請書は、つぎのような虚構の事実を記載内容としている。

(イ) 田村町一一番地の一(整理番号1)の土地については、所有者は原告であるのに田島新造と記載されている。

(ロ) 同番地の二二(整理番号3)、同番地の二三(整理番号4)の各土地については、所有者は植木時雄であるのに田島新造と記載されている。また、使用者も植木時雄であるのに植木はつ(植木時雄の母)と記載されている。

(ハ) 同番地の三〇(整理番号5)の土地については、所有者は高橋三枝であるのに田島新造と記載されている。

(ニ) 同番地の三一(整理番号6)の土地については、使用者は田島新造であるのに新栄商会と記載されている。

(ホ) 同番地の三二(整理番号7)の土地については、所有者は上坂清子(登記簿上は原告)であるのに田島新造と記載されている。

(2) 本件申請書の記載によれば、原告は土地使用者にすぎず、土地所有者は田島新造である旨表示してあるが、原告は、昭和二二年以来前記整理番号1の関係土地一五七・五八平方メートル(四七坪六合七勺)の所有者であって、単なる土地使用者ではない。また、本件申請書と一体をなしている添付図面(別紙四)の事実の地形は別紙三のとおりであって、別紙四の図面は虚偽の記載である。とくに右別紙四の図面のうち、原告所有地の地形の部分は故意に歪曲され、あたかも公道に通ずる通路のある土地であるかのように作図されているが、真実は本件私道によってのみ公道に接しうる袋地であり、原告はその上においてすでに数十年来質商を営んできたのであるから、本件私道が廃止されると、原告所有地は全然公道に接しないこととなり、営業上致命的な打撃をうけるばかりでなく、火災等の災害が発生した際には生命の危険をも感ずることとなる。のみならず、本件私道が廃止されると田島新造の所有地もまた袋地となり、原告同様の不利不便をこうむることになる。

(二) 右の次第で、原告は、本件私道の廃止に賛成するいわれがなく、その廃止を承諾したこともない。もちろん本件申請書に記名捺印したことはなく、また、本件申請書の存在や、これに基づく本件処分については、なんらあづかり知るところがなかったのであるが、その後関係土地においてビル工事に着手した者があり、また、昭和三八年八月三〇日ごろ訴外株式会社美篤商会から本件私道が廃止になった旨を聞き、本件私道の状況を調査したところ、本件申請書に原告の記名が冒用され、かつ、その名下に原告名義の三文判が押捺されていることを知った。すなわち、本件申請書の記載中、原告の記名は何人かが勝手に記入したものであり、またその名下の印影も、三文判を何人かが押捺して顕出したものであって、もとより原告の印鑑によるものではない。

なお、本件申請書に申請者として記載されている前記新栄商会代表取締役手島三千三も本件申請書の作成に関与したことなく、右申請の手続を第三者に委任したこともなく、本件私道の廃止に承諾を与えたこともない。また、前記田島、植木、山田、高橋の四名も、本件申請書に記名押印したことはなく、原告と同様の事情により、各自の記名および印鑑が何人かによって冒用されたことを知ったのであって、いずれも、本件申請書の作成に関知していない。

3 これを要するに、本件私道が廃止されると、防火防災上きわめて憂慮すべき状態を生じ、通行の便や土地の商業的繁栄のうえからも是認できず、とりわけ原告および田島の土地は、前記のように完全な袋地となり、商売を営むうえからはもとより、有時の際における避難や平常時における通行の安全上も甚大な悪影響を被ることとなるのであって、道路廃止処分が道路指定処分に比して重要でないとは到底いいえず、むしろ既存の道路を廃止する道路廃止処分の方が土地所有者その他の利害関係人に深刻かつ重大な影響をおよぼすものといわなければならない。したがって、被告は、本件申請書記載の事実ならびに権利関係が真実に合致するかどうか、土地関係人の真実の意思に基づくものであるかどうかおよび建築基準法四三条一項に違反する状態を惹起しないかどうかの点について調査をすべきであり、しかも右の諸点についての調査はきわめて容易に行なわれ得たにもかかわらず、被告の役員を現場におもむかせながら、前記のような重大な瑕疵をすべて看過して本件処分を行なったのである。それゆえ、本件処分は重大かつ明白な瑕疵があり無効というべきである。

四  仮に上記原告主張のような本件処分の瑕疵が、処分を無効ならしめるにいたらない程度であるとしても、少なくとも右の瑕疵は本件処分の取消原因となるものというべきであるから、本件処分は取り消さるべきである。

五、よって、主位的に本件処分の無効確認を、予備的に本件処分の取消しを求める。

第三被告の主張

一  (答弁)

1  請求の原因第一、二項の事実を認める。

2  請求の原因第三項1の事実は認める。新栄商会(代表取締役手島三千三)は、本件私道に利害関係を有する原告、田島、植木、山田、高橋らの承諾を得たうえ、昭和二七年一〇月三日被告に対して本件私道の廃止申請(本件申請)をしたので、被告は、右申請に基づき同年一〇月二〇日指定番号第二、四九七号をもって本件私道の廃止を指定し、同年一一月二九日告示番号第一、〇八五号をもってその告示をした。同項2の事実中、(一)(1)の(イ)の事実は認める。(ロ)の事実については、植木時雄が「同番地の二二、同番地の二三」の土地の単独所有者であったことは否認する。同土地は植木はつを含めて植木時雄ほか五名の共有であったものである。植木時雄が単独使用者であったことは不知。(ハ)の事実は認める。(ニ)の事実については、使用者が田島であったことは不知。(ホ)の事実については、「同番地の三二」の土地の所有者が上坂清子であったことは不知。同(2)のうち、原告が昭和二二年以来整理番号1の関係土地一五七・五八平方メートル(四七坪六合七勺)の所有者であったことは認める。同項中その余の事実および主張を争う。関係権利者の申請および必要な承諾はすべて正当になされたものであり、とくに植木はつは本件私道が廃止されたことを知っていたのである。

3  請求の原因第四項の主張を争う。

二  (主張)

1  東京都建築基準法施行細則(昭和二五年一一月二八日東京都規則第一九四号)八条は、「①道路の位置の指定を受けようとする場合においては、別記第三号様式による申請書に第四号様式による図書を合わせて提出しなければならない。②指定された道路を変更又は廃止するときは、前項の規定を準用する。」と定めているから、右規定によれば、私道の廃止の申請をする者は、所定の申請書と図書を被告あて提出しなければならず、右図書には、申請にかかわる私道を含む関係土地の表示とともに同私道について権利を有する者の記名捺印による承諾が、原則として、要求されている。

しかしながら、道路廃止処分においては、私人の行なう申請は、同処分の要件をなすものではないと解すべきであり、仮に申請が同処分の要件であるとしても、申請の瑕疵は直ちに道路廃止処分の取消し原因または無効原因となるものではないと解すべきである。けだし、市街地建築物法(大正八年法律第三七号、昭和二五年法律第二〇一号建築基準法の附則で廃止、以下「旧法」という。)七条は、「道路幅ノ境界線ヲ以テ建築線トス但シ特別ノ事由アルトキハ行政庁ハ別ニ建築線ヲ指定スルコトヲ得」と規定していたが、右のうち、指定建築線は、行政庁が、法定建築線のない場所に別に建築線の位置を定める「特別ノ事由」があると認めたときにこれを指定するものであるから、行政庁が、右の「特別ノ事由」がなくなったと認めるときは、一方的にこれを廃止することができると解されていた(もっとも、旧法施行細則六条は、指定、廃止の両処分につき、関係権利者の承諾が必要であるとしているが、これは、行政処分によって建築物を指定したり廃止したりする必要は個々の建築行為に伴って随時に発生するものであるという事情から、関係権利者の意思をできるだけ尊重することによって、行政処分の妥当性を可及的に確保しようとする配慮をなしたからにすぎない、だからこそ、同施行細則六条によれば、指定処分について、関係権利者の承諾を得られないときには、その事由を示せば足りるとしていた)し、また、建築基準法は、道路位置指定手続については、同法施行規則第七条に規定を設けて、そのなかで、道路位置の指定を受けようとする土地についての権利者の承諾が必要であるとしているが、同廃止手続については、右のような規定を全く用意していない。このことは、指定の場合には、私人の所有権に対して重大な制限を課することになるから、それにより土地の権利者の利益が害されることがあるため、旧法のように行政庁の職権によって指定することは適当ではないので、関係権利者の承諾を得る必要があるのに反して、廃止の場合には、私人の所有地に従来課していた制限を解除するものであるから、本来そのような考慮をする必要がないという事情に基づくものである。それゆえ、東京都建築基準法施行細則が道路の廃止について指定と同様の様式による申請手続を要求しているからといって、右様式に定められた廃止申請において権利者の承諾に瑕疵がある場合の法律効果を、指定申請において権利者の承諾に瑕疵がある場合の法律効果と同じように考えるべきではなく、右の瑕疵は、法定の要件についてのそれではないから、処分の妥当性の問題を生ずるにとどまり、処分を違法ならしめるものではなく、したがって仮に原告主張のように、本件申請(書)について、利害関係人の承諾が欠けていても、本件処分は違法又は無効ではないというべきである。

なお、被告は、東京都建築基準法施行細則八条の要件を具備した申請書と図書を受理したときは、現地調査を行なって、右図書によって表示されている関係土地が建築基準法四三条一項に違反するような建築物の敷地が生じないということを確認したうえで、私道廃止処分を行なうものであるところ、本件処分は、本件申請書および同申請書添付図書に基づき、現地調査の結果、本件私道を廃止しても、原告の所有する土地は二メートルの巾をもって西側公道に接するのであるから建築基準法四三条一項にも違反しないことを確認して行なったもので、この点からもなんら違法はない。

2  仮に本件処分が違法であるとしても、その瑕疵は重大かつ明白ではない。すなわち、本件申請書に添付された図書の利害関係人の氏名、印影が、何人かによって偽造されたものであるとしても、右図書が東京都建築基準法施行細則によって定められた様式にしたがって作成され、利害関係人の記名、捺印が承諾書欄に認められる以上、被告としては、右記名、捺印が利害関係人の適法な承諾に基づいてなされたものであると判断するのは当然のことであるから、右の瑕疵は、明白な瑕疵とはいえないばかりでなく、前記のごとく、道路廃止処分は道路位置指定処分とは異なり、原告その他の利害関係人の権利を新たに制限するものではなく、従来まで権利の利用処分等に課せられていた制限を解除するのであるから、重大な瑕疵ともいえない。

三  (予備的申立てについて)

本件処分は昭和二七年一一月二九日東京都公示第一〇八五号をもって適法に行なわれたものであるから、原告は本件処分があったことを知らなかったと主張しえない。したがって、原告の予備的申立ては、出訴期間(行政事件特例法五条一項および三項の期間、行政事件訴訟法附則七条一項および三項の期間)を徒過した後になされたものというべく、しかも後者の期間につきこれを徒過したことについて、なんら正当な理由はないのであるから、不適法というべきである。

第四証拠関係≪省略≫

理由

一  まず、主位的申立てについて判断する。

1  東京都港区芝田村町三丁目一一番地所在の幅員二・七三メートル(九尺)、延長二五・八二メートル(八尺五寸)の道路(本件私道、別紙三の図面参照)が古く明治時代より関係土地の所有権者、使用権者はもとより近隣住居者および一般通行人の通行の便に供せられてきた重要な道路であって、昭和七年三月二二日警視庁告示告建第六、二八一号をもって指定され、昭和二五年一一月二八日東京都告示により建築基準法四二条一項五号の道路とみなされたものであること、本件私道につき、訴外有限会社新栄商会(代表取締役手島三千三)が昭和二七年九月二五日付で原告主張のような記載内容の道路廃止申請書(本件申請書)を被告に提出し、被告が本件申請書によって右新栄商会から本件私道につき道路廃止の申請があったとして昭和二七年一〇月二〇日指定番号第二、四九七号をもって本件私道の廃止を指定し、同年一一月二九日告示番号第一〇八五号をもってその告示をしたことは、それぞれ当事者間に争いがない。

2  ところで、一般に申請(いわゆる私人の公法行為)が行政処分のなされるための前提要件である場合において、その申請に瑕疵があって無効であるときは、それに基づいてなされた行政処分は前提を欠く行為として無効となるものと解するを相当とするところ、私道について、建築基準法は、同法四五条一項で、私道の廃止によってその道路に接する敷地が四三条一項又は同条二項の規定に基づき条例の規定に抵触することとなる場合においては、特定行政庁(都道府県知事、なお、昭和三九年法律第一六九号による改正後の九七条の三第三項および同年政令三四七号による改正後の建築基準法一四九条第二項二号、同条三項参照)は、その私道の廃止を禁止し、又は制限することができる旨を規定しているにすぎないが、その趣旨とするところは、私道の廃止は原則としてこれを所有権者の自由意思に基づいてすることを許容し、ただ、これによってその道路に接する敷地が上記建築制限を規定する法条に抵触することとなる場合に限って、行政庁においてこれを禁止又は制限することができるというにあると解されるから、右の趣旨にかんがみ、道路位置の廃止申請は、これに基づいてなされる道路位置廃止処分の重要かつ不可欠の前提要件であるというべく、また、東京都建築基準法施行細則八条(現行細則一六条)は、「①道路の位置の指定を受けようとする場合においては、別記第三号様式による申請書に第四号様式による図書を合わせて提出しなければならない。②指定された道路を変更又は廃止するときは前項の規定を準用する。」と定め、右別記第四号様式による図書中に土地所有者、管理者、使用権者ら(以下「関係権利者」という。)において右図書の図面のとおり道路の廃止を承諾する旨の欄があり、住所と氏名を記入のうえ捺印するようになっているが、その趣旨は、道路位置が廃止されると、建築物の周囲に広い空地があり、その他これと同様の状況にある場合で安全上支障がない場合は格別として、以後関係権利者においてその土地上に建物を建築したり、増築改築大修繕等をすることを禁止される(建築基準法四三条一項)など関係権利者に対する重大な制限を受けることになるので、関係権利者の承諾がある場合に限って右道路位置の廃止を申請することができることとしたものと解せられるから、前記東京都建築基準法施行細則所定の申請が関係権利者の承諾を欠いたり、または添付された承諾書が偽造であるなど重大な瑕疵があるときは、その申請は無効であるというべく、したがって、かかる申請に基づく道路位置廃止処分も前提を欠くものとして無効であると解するを相当とする。

3  そこで、本件についてみるに、いずれも≪証拠省略≫を総合すると、本件申請および本件処分当時における本件私道の関係土地の所有関係と位置関係は別紙一および三にそれぞれ記載されたとおりであり、その当時における右土地の使用関係は別紙一に記載されたとおりであったし、また、右土地の所有関係は、少なくとも原告、田島新造、高橋三枝に関しては、当時の登記簿上も明らかであったこと、しかるに本件申請書には、右土地の所有者は田島ただ一人であると記載され、また、その使用関係は別紙二および四のとおり記載されているが、右記載のうち少なくとも田島新造と原告に関する部分は明らかに当時の事実に反し、原告使用の土地については二メートル(六・六尺)が西側公道に接しているような地形図が作図され記載されていること、さらに本件申請書には、「この申請書及び添付図書の記載事項は事実に相違ありません。」という申請者の記述も記載されているが、関係権利者の印鑑証明書、その記名捺印その他本件申請書の記載、添付図書の記載が事実に相違ないことを窺わしめる資料はなにも添付されていないこと、本件申請が、申請人として本件申請書に表示されている有限会社新栄商会代表取締役手島三千三によって真実なされたかどうかの点はしばらくおき、承諾書記載のうち少なくとも原告、田島新造、山田四郎が関係権利者として承諾の旨を表示して記名捺印の部分は、いずれも同人らにおいて記名捺印したものではなく、昭和三八年八月初めごろビル新築工事を始めた訴外株式会社美篤商会から本件私道が廃止になった旨を聞いて初めて知るところとなったこと、被告の係員訴外後藤道雄は、本件申請を処理するに当り、本件申請書および添付図書を単に形式的に審査しただけでその記載内容をすべて真実であるとし、現場調査を行なった際も、右添付図面を基にして申請にかかる場所に道路があり、その両側に家屋があるという外形の物理的状態を一見して帰庁したにすぎず、本件申請書の記載事項、添付図書の記載内容の真偽の点についてはなんら調査もなさなかったが、真実は、本件私道が廃止されると、原告および田島新造のそれぞれ所有する建物の敷地は、道路に二メートル以上接するに由なく、かつ、当時右各建物敷地の周囲には他人所有の建物が所在していて広い空地等がなかったので、建築基準法四三条一項に違反する結果を生ずる状況であったことがそれぞれ認められ、前顕各証人の証言中右認定に沿わない部分は採用せず、他に右認定を左右すべき証拠はないから、本件申請は結局関係権利者の承諾を欠き無効というべく、したがって、かかる申請に基づいてなされた本件処分も無効であるといわなければならない。

二  よって、本件処分の無効確認を求める原告の主位的申立ては理由があるから、これを認容することとし、予備的申立てについての判断を省略し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉本良吉 裁判官仙田富士夫、同村上敬一はいずれも転勤のため署名押印することができない。裁判長裁判官 杉本良吉)

〈以下省略〉

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